三章  欠けたもの

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「元々同じ存在から分岐した二人だから、そういう事もあるのかも」  タオルケットをかけようとしたところで、しがみついた鈴音の涎でウスツキのシャツがベロベロになっているのに気付く。 「あーあー……こりゃ駄目だ」 「起きなさそうだし、朝になったら着替えさせるよ」 「ああ、うん。じゃあ、僕は部屋に戻るから。おやすみ、日野さん」 「うん、おやすみなさい」  僕は手早く参考書と問題集を片付けると、二階の自室へ戻る事にした。  階段を上がって自室へ戻る途中、ベランダへ出るガラス戸が開いているのに気付く。 「……?」  顔を出してみると、ベランダのふちの部分に腰掛けたサクラの姿があった。 「サクラ、こんな所で何してるんだ?」 「む? おお、ご主人であるか。今日の勉学はもう終いであるか?」 「質問を質問で返すんじゃあないよ。……ってお前また酒なんて飲んで」  ぐいのみと酒瓶、そして開封済みの猫缶が目に入り、ジト目でサクラを睨む。 「おおっと、これはアイレンで私が給仕の“あるばいと”をして稼いだ正当な賃金で買ったモノ故、ご主人とは言え文句は言わせぬであるぞ」 「猫缶食いながら酒飲むヤツなんて初めて見たよ」 「酒の肴にはまぐろ缶の方が良いであるな」  サクラ以外に対して心底役に立たない情報である。     
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