三章  欠けたもの

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「……なあ、サクラ」 「ふむ?」 「ウスツキは霊の浅草の幽霊――ソウタ君が純粋な人間の霊体のままで現世に残ってるとは考えにくいって言ってたけど、サクラはまだ半々て感じなのか?」 「ふむ。……まあ、そうであるな」  そう言って酒を注ぎ足し、一口に呷る。 「つい最近死んだ者であれば或いはあり得るやもしれぬが、そのあたりの素性もまだわからぬ。長い時間であればあるほど、剥き出しの人間の魂魄が形を留め置く事に現実味は無くなっていくのであるな。そうなれば何か別の要因がある事を考えねばならぬ」  サクラは一度言葉を区切り、雲間から見える月に視線を移した。 「夢と現の境界線を歩いているのはあの少年か、それとも――」 「……?」  この時の僕にはサクラの言葉の意味がよくわからず、酒をちびちびやるサクラを見てただ首を傾げるほかなかった。
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