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「ふおぉぉー……」
鈴音が僕のスマホの星座観測アプリを通して色んな方角の星座を見つけては、その度に目を輝かせていた。
良く晴れた夜はしばしば鈴音が星座の観測をしたがるので、今日もベランダに出てそれに付き合っている次第である。
「ととさま、おうまさん!」
「はは。そうだね。背中に羽根があるお馬さんだ」
長い時を生きる妖とは言え、鈴音はまだ鈴音としてこの世界に生まれてからまだほんの少ししか経っていない。
見た目通りの人間の子供達と同様の無邪気さを持つ鈴音を見ていると、もっともっと沢山の綺麗なもの・素敵なものを見せてあげたいと言う気持ちでいっぱいになる。
それがもし、道半ばで途絶えてしまう事になったなら。
どれほど深い悲しみと向き合う事になるのだろうか。
そしてそれは少なくとも、ずっと昔にあの幽霊少年――ソウタ君の身に起きてしまっている事だった。
アイレンで圭一さんに見せられた過去の新聞記事の抜粋は、僕らが出会ったあの少年と、およそ三十年前にあの辺りで行方不明となった少年の名前や特徴がほぼ一致する事を物語っていた。
「……」
「朝霧君?」
ぼーっとしていた僕に気付いた日野さんが、こちらを覗き込んできた。
「どうかしたの?」
「え? ああいや、別に大したことじゃ……」
慌てて首を振ったけれど、それを見た日野さんが苦笑する。
「いいよ誤魔化さなくて。朝霧君、そういうの下手なんだから。……ソウタ君の事でしょ?」
いつになっても僕にとってはポーカーフェイスと言うものは縁遠いもののようだ。
「……あの子と新聞記事の子が同一人物だとして、そうなるとやっぱり純粋にソウタ君は人間の魂魄そのもので、未練であの場に残ってるって事なのかな」
「どうだろう……。サクラは普通の人間魂魄じゃあ、長い事現世には留まれないって話だったでしょう?」
「……まあ、確かに」
その考えで言えば、三十年と言う時間は長すぎる。
「うーん……駄目だ。まだわからない事が多いや」
「ととさまかかさま、どーしたの?」
僕と日野さんが神妙な顔で話をしているのが気になった様で、鈴音が僕のシャツの裾を引っ張りながら尋ねてくる。
「――ああ、ごめんごめん。何でもないよ」
心配させてはいけないと、僕は鈴音に笑って見せた。
いずれにせよ。依子さんの小説とも何か関連があるかもしれない事も含めて、もう一度会いに行く必要がある。
ソウタ君と接触して情報を得ることもそうだけれど、できれば依子さんにも何か心当たりが無いかを確認しなければならない。
幽霊だろうと何か別の怪異だろうと、子供の俯いた顔を放っておくことはしたくなかった。
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