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その週末。
僕らは三度、浅草を訪れていた。
「ととさま、またあんみつ食べに行ける?」
既に甘味の事で頭がいっぱいの鈴音が、サクラに肩車をされながらはしゃいでいる。
「はは、そうだね。後で時間ができたら食べに行こうか」
「ソウタくんも一緒に行けたらいいのにね」
「……あー……うん。一緒に、ね」
何と答えるべきかわからず、曖昧な返事を返してしまった。
鈴音自身にはまだ人とそうでないもの区別と言うものが明確に生まれていないので致し方ないのだけれど。
サクラの見立てでは、おそらくあの子は何某かの理由があってあの場所に紐付けられているような状態なのだと言う。
それ故に、鈴音の言ったようにどこかへ連れ出す事は難しい。
あの子を河川敷に縛り付けている因子を取り除けば、サクラや鈴音達妖のように物理世界に自力で顕現する程の密度を持たない魂魄はあるべき所――この世とは違う場所へ還る。
あるいは鐘の音と紐付いた、人間霊ではない全く別の怪異である可能性も可能性は無くはないらしいけれど、いずれにせよ実体を持たないあの子には困難な話と言えた。
夕凪家のドアが開くと、明日香さんが顔を出す。
「何度も来てもらう事になって、何かすみません」
「ああいや、僕らは自分で決めて関わっているので。気にしないでいいですよ」
リビングに通されたが、依子さんの姿は見当たらなかった。
「依子さん、部屋ですか?」
僕が尋ねると、明日香さんは少しバツが悪そうにして言う。
「お母さん、急用で出版社の方に行ってて……そんなに遅くならないとは思うんですけれど」
ううむ、間が悪いと言うかなんというか。
「あ、そうだ洋子さん。あれからどうですか? 見た感じ殆ど大丈夫そうですけれど」
そう言って明日香さんが婆ちゃんの顔を覗き込む。
「ええ、おかげさまで。もう大体元通りになってきたんじゃないかしら? 明日香さんのこれのおかげね」
言って以前明日香さんに付けてもらった霊気の循環を調整する組紐を見せた。
婆ちゃんの言葉通り、見た目に関しては本来の婆ちゃんに概ね戻って来た感はある。
まあそれでもまだ四十歳過ぎくらいの外見ではあるけれど。
「それは良かったです。でも念のためあと一週間くらいはそれ外さないでくださいね。洋子さんの霊力が強すぎて効き目が弱いみたいだから、今外すと再発するかもしれないので」
「ええ、わかったわ」
いくらこの一年身の回りに不可思議な存在が増えたとは言え、実の祖母がそうポンポンと何十年分も若返ると言うのは中々複雑な気分なので出来れば避けてほしい話ではある。
――ともあれ。
「そうだ、明日香さん」
「はい、何ですか?」
依子さんが帰宅するまで無駄に時間を浪費するのも勿体ない。
僕はいくつか明日香さんからも情報取りを進めておく事にした。
「明日香さんは、依子さんの小説読んだりとか……してますか?」
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