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「またこんな古い記事、よく見つけたね」
置かれた記事を手に取って、依子さんは驚いた様子で呟いた。
「知り合いに、昔このあたりであった事件のニュースを憶えている人が居たんです。テレビでも新聞でも一時随分話題になったって」
「……そうね」
一呼吸置いたあと、言葉を続ける。
「この記事に書いてあるニュースは、確かに昔このあたりであった事よ」
「この事件で行方不明になった男の子の名前、河川敷で僕らが出会った子と同じ『ソウタ』君なんです。もしかしたら関係があるかもしれない」
「つまり……夢路君はその幽霊少年が、三十年前に実際に行方不明になった男の子だと睨んでいるわけね」
そう言いながら依子さんは僕の目を真っ直ぐ射貫くように見つめている。
僕のこの話の真意を推し量っているようにも思えた。
「まあ確かに、そういう見方をすれば幽霊少年と記事の子は同一人物かもしれないわね。けれど、私にもそれ以上詳しい事はわからないよ。私がこの町に住むようになったのは作家になってからだし、この事件が起きた頃は埼玉の実家で小学生だからね」
なるほど。
そう言えば依子さんの実家はお寺だとか婆ちゃんが言ってたっけ。
「事件当時は随分報道もされたから、テレビか何かで朧気に見聞きした記憶が小説の登場人物に影響した可能性は無くもない……かもしれないけどね。なにぶん学生の頃に書いた短編が大元だから、どんな心持で書いたかまでは憶えてないんだわ」
「……そうですか」
「――ふむ。あれが純粋に人の霊体であった場合として話をするならば……であるが」
それまで窓際に立って僕らのやりをよそに外の景色を眺めていたサクラが、こちらを振り返った。
「決め手になる情報が得られなければ、あのソウタと言う小僧の霊気体に対して我々が取れる措置は二つに一つとなるワケであるな」
「それって、具体的にはどうするんだ……?」
「このまま放置するか、或いは何かの間違いで人に害為す怪異と化す懸念を重視して強制的に祓うか、と言う話であるよ」
「強制的に……?」
「あの小僧は何某かの未練を抱えておるが、霊気の欠損によってそれが何であったのか自身でもわからなくなっておる様子であった。このまま放置した場合、霊気体が崩壊して自然に消滅する可能性と、抱えた未練が何であったかすらわからぬまま怪異化する可能性は半々と言った所。当人は納得せんであろうが、今のうちに無理矢理祓っておくのが良かろうなのである。本来、死した者は現世に長くは留まれぬが道理である故に」
それはつまり――怪異化する前に怪異同然と見なして祓うと言う事を意味しているのだと、僕は直感した。
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