四章  昔語り

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(11) 「ごめんなさいね、依子さん。また御厄介になっちゃって」 「あーいいよいいよ洋子さん。ウチは年中私と明日香だけで、こんな大人数で夕食なんてしないからね。明日香だって話し相手が多くて楽しそうだしさ」  夕凪家に戻った僕らは原稿で煮詰まったらしい依子さんに誘われてスパで入浴を済ませ、今はファミレスで夕食をとっている。  ソウタ君の件をもう少し踏み込んで進展させなければならないと言う事情からの事だけれど、明日いっぱいまで時間を使ってそれがどこまで見込めるかはまだ不透明だ。  ……更に言うとまた泊まる流れになってしまったので、地元に戻った時にウスツキにブツブツと文句を言われる事がほぼ確定しているのも個人的には悩ましい。 「はた! はただよ!」  お子様ランチを前にしてはしゃいでいるのは勿論鈴音である。 「お子様ランチの旗って、今も昔も変わらないんだね」 「懐かしい」  僕と日野さんが伝統的なディティールについて話している横で、 「鈴音ちゃん、明日香お姉ちゃんが食べさせてあげようか」 「あい!」  何だかすっかり鈴音の虜になっている明日香さんがべったり張り付いて世話を焼いている。 「明日香さん、鈴音はちゃんと一人でご飯食べられますよ」 「えーいいじゃないですか別に」  うーん、これは完全に御島さん二号だな……。 「んで、結局河川敷の幽霊少年の正体はわかったの?」  グラスに注いだビールを一口やって、依子さんが話を切り替えた。 「はい。新聞記事にあった香内蒼汰君で間違いないと思います」 「そう、なんだ」  ……まただ。 「どういう経緯にせよ、年端も行かない内に命を落とした話ってのは……イイ話じゃあないね」  ソウタ君が亡くなった当時はこの町に住んでいなかったはずの依子さんが時折垣間見せるこの小さな違和感は、何なんだろうか。  やはり単純に子を持つ親として懐く、幼い命が失われた過去の出来事への悼みと言うものとは、どこか違う感情が紛れ込んでいるような、そんな気がした。
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