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(13)
夜の河川敷は、時折遠くの走る鉄橋を通る電車の音が聴こえる他には、風の音くらいしかしない静か場所だ。
公園の中に、見覚えのあるシルエットの人物が佇んでいるのが見えた。
「お母さん!」
明日香さんが声をかけながら駆け寄る。
「ん? あれ……みんなどうしたの?」
依子さんが少し驚いたような顔でこちらへ振り帰った。
「もー、どうしたのはこっちの台詞だよ。帰ったら玄関に靴無いしさ。サクラさんが居なかったら場所わかんなかったよ」
「ふふん、依子殿は一応普通の人間よりは霊力が高め故な。霊獣仙狸の権能を以てすれば、近場であれば凡その居場所を探る事くらいは出来――これ鈴音、私の上で寝るでない」
ドヤ顔で解説を始めたサクラだったが、夕食を食べた後からうつらうつらし始めていた鈴音を肩車した状態で、鈴音が舟を漕ぎ始めてしまったらしい。
「んー……まだ、あいすもたべる……じゅるり」
「ぬおお、ヨダレを垂らすでない!」
……まあ鈴音はとりあえずサクラに任せておいて大丈夫だろう。
「それで依子さんは、どうしてここに?」
僕が尋ねると、依子さんは視線を公園の奥の方へ巡らせて言った。
「うん、まあ、ちょっとね。夢路君達が話してた幽霊の子ってのが居るかなと思って、さ」
「ソウタ君ですか」
「うん」
「……どこかに居るのかもしれませんけど、姿を見せるのは決まって夕方みたいですからね。この時間では難しいんじゃないですか」
ソウタ君自身が人間の霊体である事が間違いなかったとしても、彼の出現には暮六つ時の鐘の音と言う怪異と何らかの関連性がある。
怪異の在り方と言うものは、それ自体が存在の根幹を支えるが故にそうそう揺るがない。
だから、ソウタ君の姿を見つけられるのはおそらく夕方の六時を回ったあたりからしばらくの間しか無いのだろうと思う。
「逢魔が時……ね」
「依子さん」
「ん? 何かな?」
「依子さんはやっぱり、ソウタ君――香内蒼汰君の事を知ってるんじゃあないですか? あの新聞記事に書いてる以上の事を」
「……どうして、そう思うのかな?」
「今度書かれるお話、昔の短編を長編に作り直すものだって話を少し聞きました。依子さんの小説の熱心なファンが友達に居て、初期の短編では『逢魔が時の境界』が特に傑作だって話も聞いています」
「……」
「僕も読みましたけど、あれはこの辺りの河川敷で神隠しに遭った男の子と、自分のせいで神隠しに遭った男の子を追う主人公の女の子の話です。そんな物語を書いた依子さんが、こうしてここに足を運んでいる。あの小説と三十一年前の香内蒼汰君の話にはやっぱり何か関連があって、依子さんはそれを少なからず人よりも知っている……と、思ったんです。違ったらすみません」
依子さんはしばらく沈黙した後、苦笑しつつ静かに口を開いた。
「……少し、冷えてきたね。鈴音ちゃんもそんなだし、続きは家で話そうか」
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