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(15)
リビングに沈黙が落ちる。
僕はどう反応して良いのかわからずに視線だけで一同の様子を伺った。
日野さんと明日香さんは概ね僕と似たようなもののようで、その表情には戸惑いの色が見える。
一方のサクラは特段驚くふうでもなく追加のクッキーを頬張っているし、婆ちゃんもただ静かに紅茶を啜っている。
流石にこの二人は昔からその手の事案に多く関わってきているだけあって、慣れたものだと言う事なのだろうか。
……とにかく、もう少し具体的に内容を聞き出さなくてはならない。
「その、怪異に呑まれた……って言うのは」
「あの日……蒼汰君が転校して半年くらい経って、幼馴染だった私は何度か手紙のやり取りをしていて蒼汰君の住んでいたこの町で遊ぶ事になったんだよ。当時はSNSどころか電子メールも無かったからさ、手書きの手紙でやり取りしてさ」
「お母さん……それってもしかして、蒼汰君のこと……」
「ん? いやぁ、どうだろうね。小学校低学年の話だしさ。そう言う感情があったのかどうかは今となっちゃあ、私にもわからないなあ」
依子さんは少しはにかんで見せたけれど、それはすぐに苦笑いではぐらかされてしまった。
「けどまあ、幼稚園から一緒だった蒼汰君と会えるのが凄く嬉しかったのは憶えてる」
「……」
「それであの日は、蒼汰君のお爺ちゃんが働いていた寄席にね、連れて行って貰っていたんだよ」
「寄席って……落語とか演る、あの寄席ですか?」
「そう、寄席。蒼汰君はお爺ちゃん子だったから、何かにつけてそう言うものに触れる機会があったみたいでね。時々連れて行って貰ってたらしいんだ」
依子さんの口から語られる生前の蒼汰君と幼かった頃の依子さんの過去を聞きながら、僕は感じていた。
――似ている、と。
「当時の私にとってはこの町景観や人の性質、町自体が持ってる空気含めて全てが初めてのものばかりだったからね、落語だって食い入るように聞いた」
「その演目って……その」
僕の表情を見て察したのだろう、依子さんは一呼吸置いてから頷いた。
「そう、演目は『野晒し』。同じだね、私の小説の中で演じられていた噺と」
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