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(2)
花やしきを出た所で改めて時刻を確認してみたけれど、流石に夕方までは幾分時間が空いていた。
どうしたものかなと考え始めた時、誰かと電話をしていた婆ちゃんが言う。
「夢路さん、一度浅草駅の方へ戻りましょう」
「駅? 何かあるの?」
「助っ人をね、呼んでるのよ」
「……助っ人?」
僕と日野さんは互いに顔を見合わせ、首を傾げた。
「洋子さーん!」
雷門通り。
駅の地上出口の所に見覚えのある人物がブンブンと手を振っていた。
「……レイカさん?」
何かやたらデカいサングラスをしていて一瞬わからなかったけど、間違いなくレイカさんだった。
「朝霧さん、あの人……誰なんです?」
明日香さんが小声で話しかけてくる。
「あー……えっと、地元の喫茶店のお姉さんで……一応、サトリの妖……って言うべきなのかな」
「……朝霧さんの地元じゃ、妖が喫茶店で働いてるんですか」
「働いてるって言うか、その喫茶店のマスターとくっついたんだけどね」
「そっちの方が更に驚きですよ……」
「まあ確かに、言われてみれば」
うーん。
身の回りに不可思議な事が頻発するようになってからの一年あまりで常識の感覚がだいぶ麻痺してきているのかもしれない。
「……と言うか、恰好もまたちょっとレトロな感じだね……」
オーバーサイズのチェックシャツ、対照的に細いラインのデニム。
「うふふ、ふた昔前の香りがするわね」
なるほど。
レイカさんの元になった人物から受け継いだ一番色濃い記憶が八十年代あたりだから、服の趣味がそういう傾向になるのか。
地元でお店にいる時の格好しか見ていないとわからない一面である。
「いや、それより婆ちゃん。レイカさんまで呼んだりして何か考えがあるの?」
レイカさんのレトロファッションの話はともかく、ここへわざわざ出向いて貰うと言う事は、それなりの理由があるはずである。
「だいたい、ソウタ君相手じゃあレイカさんの権能だって効果が見込めるかわからないってサクラも婆ちゃんも言ってたじゃないか」
「まあ、一応念のため、ね」
そう言って婆ちゃんは意味ありげに笑い、器用に片目を瞑って見せた。
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