一章  解決策は何処

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一章  解決策は何処

 (1)  まだまだ気温は高いとは言え、流石に十月初旬ともなれば幾分町の表情も変わってくる。  昼間出歩いていて蝉の大合唱に心を折られる事も無くなってくるし、夜ともなれば薄着で外出するのはちょっとどうかと言う日も増えてくる。  少しずつ移り行く季節とともに、本来ならば僕や日野さんは受験勉強にひたすら集中するべき時期なのであるけれど……。 「何物憂げに考え事してます、みたいな顔してるのよ」  ボーっとしていた所に座布団が飛んできた。 「いきなりひどいじゃないか」 「あなたが今やらなきゃいけないのは勉強なんじゃないの?」  お説教モードで登場したのは神職衣裳の白衣袴を纏った少女、ウスツキである。  つい先頃から朝霧家に暮らし始めた住人であり、人ならざる妖の少女である。  座敷童の亜種……とでも言うのだろうか。  ウスツキドウジと言う怪異が源流となっている。  外見上は十~十二歳くらいだが、かつて百年以上安住の地を求めて人界を放浪した過去を持つため現代の常識に関して少々おぼつかない部分はあるものの、精神性は大人びている。  彼女とは別にもう一人、同じ怪異から派生した鈴音と言う妹のような子が存在するのだが、そちらはこの世に形を得て間もないため七~八歳程度の外見と精神を持つ。  二人並べると気の強いおしゃまな姉に純真無垢でお姉ちゃん大好きな妹と言った感じで我が家のみならず、彼女達が妖である事を知らない商店街の人達からも可愛がられている。  そんなこんなで我が家もこの一年で住人が倍になった事になり、最近は特に賑やかだ。 「まさか『勉強しなさい』をウスツキから言われる日が来るとは思わなかったなあ」 「不本意なら言われる前にやるのよ」  ド正論で返されるとぐうの音も出ない。 「はいはい。……それで、ウスツキは今日も爺ちゃんの手伝い?」 「ん? まあね。鈴音ともども厄介になってる身だし、けど私達が人間と同じ仕事で稼ぐのは一般常識とか慣習とか……まだ中々難しくて……だからせめて神社の事くらいはね」  うーん……こんなに立派な事を言われてしまうと、僕なんか立つ瀬がない気もするのだけれど。  確かに喫茶店アイレンのレイカさんなどもその正体は妖であるにも拘わらず普通に働けているけれど、あれは外見がかつて実在した人間の成人女性を模している事やサトリとしての権能によって人間社会の知識なんかをかなり詳細まで吸収していて普通の人間として振る舞う事ができるが故である。  人型に変化できる猫又として幕末から人の世で生きているサクラですら、時折どこか浮世離れした考え方や言動なんかが垣間見えたりする。  爺ちゃん婆ちゃんも、妖であるウスツキ達にそこまで求めたりはしないだろう。 「それに、考え事ってどうせ洋子の事でしょう?」  ウスツキは腕組みして僕の顔を覗き込みながら言った。
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