三章  欠けたもの

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三章  欠けたもの

(1) 「……んで、結局そのソウタ君……だっけ? その子があの公園に顕れた理由に繋がりそうな情報って、その『何かを探してそこへ来た』……らしいって言う漠然とした思いだけ?」  依子さんは大皿のエビチリを自分の取り皿に山盛り取りながら言った。 「はい……でも、それが何だったのか……本人もわからないみたいで」  答えながら僕はお茶を一口啜る。 「あの童が……あむっ、……真に純粋な……むぐ、むぐ……人間霊であると断じるには……んむ、あむ……早計であると思われるが……」  サクラは焼き魚を頭から骨ごとバリバリ咀嚼しながら、自身の見解を述べる。 「……物を食いながら話をするんじゃないよ」 「フハハ、まあそうカタいことを申すでない。……で、仮にあれが人間霊であったとして、あの記憶の欠損を見るに既に魂魄の持っていた霊気の何割かは霧散しておるのであろうな。私や鈴音の様な妖の者とは違い、人の魂魄は密度が薄い。霊気体として顕現してからどのくらい経過しておるのかわからぬが、おそらく時間の経過とともに症状は顕著になって行くのであろう」 「それって……今よりもソウタ君の記憶が抜け降りて行くっていうこと?」 「然り」 「ふぅん……じゃあやっぱしそんなに悠長に構えてる時間は無いってワケね」  そう言う依子さんの目は、事の状況が思ったより複雑になりそうな話を聞いてゲンナリするどころか知的好奇心を刺激されたらしく、その瞳は知識欲を糧に爛々とした光を宿しているように見えた。  僕らは現在、夕凪家からほど近い場所にあるスパリゾートを訪れている。  時間的に押して遅くなりそうだった事とから夕凪家に泊まるという流れになったのだけれど、これだけの人数分の夕食をいきなり明日香さんが用意する(依子さん自身は曰く壊滅的料理スキルらしい)事になるのも負担が大きいし、加えて入浴の問題(メンツの男女比を考えていただければ明白であろうと思う)も解決できる事から双方の問題に対する回答としてのここ、なのである。 「んー、しかしソウタ君てその幽霊の子も連れてこられたら、この場で色々聞きたいことあったんだけどなあ、残念」  依子さんは腕組みをして唸っている。  ソウタ君はあれから少しした後、時間も時間だったので場所を変えようという話になった時、首を静かに振って再び姿を消してしまった。 「あの場から動く気が無いのか、動けぬ事情があるのかわからぬが……もしかすると、場所に縛られておるのやもしれぬな」 「……私は少なくともあの場所以外で見かけたことはないですね」  河川敷の公園と言う場所に紐づくような形となっているソウタ君。 「姿を見せる時間も夕方限定みたいだけれど、何か理由があるんですかね」  場所以外に時間に関して僕が何気なく口にした疑問に、依子さんはニヤリとしながら少し身を乗り出す。 「その点に関しては一つヒントと呼べる要素があるかもしれない」 「……ヒント、ですか?」 「うん。それはね……弁天堂の鐘よ」
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