<前編>

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 皆さんは、座敷童子という存在を知っていますか?  座敷童子、と書いてザシキワラシ、と読みます。岩手県を中心に、数多くの地方で知られる、非常に有名な妖怪です。精霊や、神様だという話も聞きます。  座敷童子は多くは子供の姿をしていて、一般的には着物を着ているおかっぱ頭の童子だとされています。男の子もいれば、女の子もいて、時には性別がわからないケースもあるのだとか。  今回の物語の主人公は、その座敷童子の子供――名前を、太郎君と言います。黒いおかっぱの髪に、藍色の着物を着ている男の子です。  なんで座敷童子なのに名前があるのか、ですって?それは、太郎君に名前をつけてくれた人がいたからなのですよ。 「なあ、お前!名前はなんていうの?」  太郎君は座敷童子です。  どこかの家族が住んでいる家に一緒に住まわせてもらう妖怪です。  その時太郎君が住んでいたのは、“榊さん”という家のお宅でした。  榊さんの家には、お父さんとお母さん、息子のゆう君、犬のぽんたが住んでいました。座敷童子、という存在は大人には見えません。子供にだけ、時には動物にも見えることがあります。  四人の家族で、太郎君の姿が見えたはゆう君と犬のぽんただけでした。ゆう君は、太郎君の大切なお友達です。太郎君が、僕は座敷童子なので名前はありません、と言うと。ゆう君はにっこりと笑って言ってくれたこです。 「じゃあ、俺が名前をつけてあげる!お前の名前は、今日から太郎だ!」  なんでも。それはゆう君が好きな、ヒーローの名前なんだそうです。  名前ができた太郎君は喜びました。  座敷童子として生まれて、たくさん、たくさんの家を回ってきた太郎君です。しかし、太郎君が見える人は多くありません。子供でさえ、最近は見えない人が増えてしまいました。話ができる相手がいないのはとても淋しいことです。話ができても、仲良しになれるとは限りません。  ゆう君は、太郎君にとても優しくしてくれました。  そして生まれて初めて、太郎君だけの名前をつけてくれました。  自分は、ゆう君にとってトクベツな存在になったのだ――太郎君は大喜びしました。ゆう君と、ぽんたと一緒に庭で遊ぶのが毎日の日課です。ラブラドールレトリーバーのぽんたはとても力が強いですが、ゆう君や太郎君が転ぶとすぐ心配して駆け寄ってきてくれます。太郎君は、二人のことが大好きでした。
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