A little happiness

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 奥の方でごそごそと音がする。俺が洗い物の手を止めて振り返ると、柏木さんが布団をかぶったまま、のそのそと起き出して来ていた。眼鏡もかけず、ごしごしと寝ぼけ眼をこすっている。 「おはようございます。……もう昼の3時っすよ」 「……マジ?」 「時計見て下さい。休みっつーのに、寝すぎっすよ。あと布団かぶったままキッチン来ちゃダメっす。埃が舞うんで」  柏木さんは俺を見、近づいて時計を見、そしてすごすごと部屋の奥へと戻っていく。 「いやだから、布団! せめて下ろして下さいよ!」 「え、寒い。無理。パジャマだし」 「なんで上着着てこないんすか?! 枕元にカーディガン置いてきたのに……。つか、着替えて来て下さいよ」 「服着るの面倒」  大きな溜息。俺はがっくりしたまま、近づいて彼女から勢い良く布団を剥ぐ。柏木さんはひど、寒いってー、と文句を言ったが、大人しく服を着て戻ってきた。寝ぐせがついたままだが眼鏡をかけ、さっきよりも顔はシャキッとしている。 「布団、戻してくださいね」 「へいよー」 「ご飯食べます?」 「いや、いーよ。3時だし」 「でも何か食べた方がいいっすって。ほら昼飯の残りあるんで、どうぞ」 「え? あぁ……どうも。榛奈は本当、いいお母さんになりそうだよなぁ」 「いや男っすからね、俺! ……というか柏木さんは本当だらしなさすぎっす」 「家の中くらいゴロゴロしたっていーじゃん。昨日まで修羅場だったんだぞ」  そう言って柏木さんは俺が昼に作った野菜スープをすすり、昨日の鍋の出汁を使ったおじやを食べる。確かに今週は忙しかった。先日起きた殺人事件の初公判で、副検事として法廷に立っていた柏木さんは被告人の資料を1日中調べていたり、議論に参加したりと、ハードスケジュールをこなしていた。……でもだらしないのは普段からでしょう、と俺が指摘すれば、まぁそーなんだけど、とあっさり返される。再びの溜息。……それを承知でここにいるのだから、俺もお人好しだな、と思う。…………こんな元チンピラを、自分の家においてしまう彼女には敵わないけれど。
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