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「あー、上手い。沁みるわ」
「野菜スープくらいで大袈裟っすよ。おかわりありますからね」
そう俺が言い終わる前に器を差し出してきた。呆れながら笑う。すると柏木さんがにへ、とどこか抜けた、子供っぽい笑みで返した。
雷に打たれたように一瞬動きが止まる。柏木さんが笑うのは結構珍しい。何でもない風を装ったが、動きがどこかぎこちないのは否めない。彼女がそれに気づいたかはわからなかったが、既にその顔に笑顔はなく、ん、と言って器を受け取った。
「そんなに美味かったんすか?」
ごまかすように問いかける。
「んー、何でだろうな。まぁ美味しかったからかな」
「でも俺が毎食こうして作らないと柏木さん、1週間カップ麺で過ごすじゃないっすか」
「まぁね。面倒だし」
「作る気ないんすね……」
「買った方が早いし美味い。お前みたいに好きでやるわけでもないならその方がいい」
「相変わらずっすねぇ……」
確かに俺は料理を作ることが比較的好きだと言える。料理に限らず掃除、洗濯物、買い物といった家事全般、俺にとって苦ではない。下っ端時代も煙草に火をつけるとか車の運転といった細々したことが苦手ではなかったから、元々向いていたのかもしれない。
「好きじゃない、興味が持てないことはしたくない。それだけ」
そう言って柏木さんは箸を置いた。ごちそーさん、と言って食器をシンクの隣に置く。さっきの笑顔よりもむしろこの、ぶっきらぼうな一言の方が圧倒的に柏木さんらしい。もちろんそれでいいとは思う。それに俺が柏木さんに対して何か言える人間でもないのはわかっている。けど、せっかくの休みなんだし、少しくらい何か家のことをしてもらいたい。せめて掃除くらいは。
「でも部屋の掃除はして下さいね? あれじゃ床の踏み場がないっすから。したくなくてもすべきことはあるっすよ」
げーっという顔でこちらを向く。俺は腰に手を当て、その顔をじっと見た。
「……お前さぁ、最近本当にお母さん度があがったよなぁ」
「だからお母さんじゃないっす! ったく、そんなこと言ってないでさっさと掃除して下さい。今日どこにも出かけないんでしょう?」
「そーだけどさぁ、うわ、したくねー……」
「何なら俺も手伝いますから。やりましょう。休みの日に一気にやらないと、後々更に面倒っす」
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