雨音ヘアサロン

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雨音ヘアサロン

 店のなかは閑古鳥が鳴いていた。  カットやカラーの予約も入っておらず、外は十二月の冷たい雨。  私はセットチェアの脇でため息をついて、掃除でも始めようかと鏡台のよこの戸棚に手を伸ばす。そこに、カランと軽やかなドアベルの音とともにひとりの女性がやってきた。 「いらっしゃいませ」  戸に伸ばしかけた手を止めて、ゆっくりとカウンターに歩み寄った。  入ってきたのは、ボサボサの髪を腰元まで伸ばした若い女性。伸びすぎた前髪の隙間から覗く目には警戒心のようなものが見て取れる。 「本日はカットのご来店ですか?」  女性がコクリと頷くのを見て「こちらにどうぞ」とセットチェアへ案内する。 「カットは、どういたしますか?」  鏡の向こうの女性と向かい合う。彼女は一瞬だけ目を合わせると、気まずそうに視線を伏せて言った。 「傷んでいるところとかを、適当に切って頂ければ」 「かしこまりました。まずはシャンプーをさせて頂きますね」  女性をシャンプー台へ誘い、腰かけた彼女の髪をすくいあげる。ゴワゴワと指に絡まるような手触りで、手にした櫛が通らない。目の粗い櫛を取り出しながら、ゆっくりと台の上に髪の毛を広げていく。 「お湯、熱かったらおっしゃってくださいね」  彼女の後頭部が縦に小さく動いたことを確認し、シャワーを流す。一通りお湯ですすいだのち、しっかりとシャンプーを馴染ませた。それでも髪はギシギシと固く、指に何度となくひっかかった。  優しく全体にシャンプーを揉みこんで、再びシャワーで流す。  タオルを二枚使い髪からしたたる水滴をふき取ると、再びセットチェアへ戻った。髪に覆われていた、こぶりな顔が印象的であった。
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