67人が本棚に入れています
本棚に追加
よろけながら一階の居間に降りたラシェルは、見知らぬ身なりのよい青年がいることに驚いてきょとんとした。
長い銀の髪を背中に流した青年は、新緑色の柔和な垂れ目を細めてラシェルに会釈をする。
「ま、まだいたの!?」
思わず青年を睨み付けると、途端に奥から悲鳴に近い声があがった。
「ラシェル! なんてことを言うの、お客様に対して!」
コーヒーの香りをさせたカップをベルが青年の前に置いたのを見て、ラシェルは青くなった。
今朝からの出来事が印象的過ぎて、つい軽口をたたいてしまったが。もしかしなくても、目の前の青年は生きているお客様らしい。
「ご、ごめんなさいっ、つい、その、寝ぼけてしまって!」
慌ててとりなせば、銀の髪の青年は静かに首をふった。
感情の読み取れない――おそらく、社交辞令の笑みを浮かべて、青年は微笑む。
「いいえ、構いませんよ。突然押しかけたのは僕のほうですから」
「本当にすみません、うちの子が失礼を」
どことなくいつもより腰の低い母が、ぺこぺこと頭を下げる。母親に頭を下げさせてしまった申し訳なさと、見知らぬ来客――それもおそらく貴族の人間の訪問に戸惑うラシェルは、ただその場で立ち尽くした。
ベルに手招きされて青年の向かい側の椅子に座れば、ベルもその隣に腰を下ろした。至極当然のように、後ろをついてきた幽霊たち四人も机を囲むように立ちはだかる。
最初のコメントを投稿しよう!