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一瞬にして人口密集地と化した居間で、ラシェルはちらりとベルの様子を観察した。どうやら、彼女には幽霊たちは見えていないらしい。
静まり返った居間で、最初におずおずと口を開いたのはベルだった。
「それで、あの。うちの娘にご用件、とは?」
その言葉に反応したのは、ラシェルだ。
顔をあげて、ベルと来客の青年を見比べる。
「へ? 僕?」
「こら、僕っていうのやめなさいって言ったでしょ」
すかさず飛んできたお小言に、軽く肩をすくめて顔をそらす。
そんなラシェルに軽く笑った来客はコーヒーカップを持ち上げると、にっこり笑みを深めて口を開いた。
「改めて、自己紹介を。僕は、マテウスと申します。国王陛下のご命令により、お嬢様をお迎えにあがりました」
さらりと告げると、マテウスと名乗った青年はコーヒーに口をつけた。一口飲んだ瞬間、口に合わなかったのか軽く眉をひそめたが、それも一瞬のことですぐに笑みへ戻る。
一方、ラシェルはぽかんとしていた。
(今、なんて言った? 国王陛下?)
ベルを見れば、彼女もまた目を皿のように見開いて、青年を凝視していた。ラシェルの視線に気づいて振り向いたベルと視線を交わし、おずおずとマテウスに問いかける。
「あの……聞き間違い、じゃ」
「国王陛下が、そちらのお嬢様をお望みです」
繰り返したマテウスの言葉に、ベルは小さく悲鳴のような声をあげたあと、言葉を紡いだ。
「それってつまり、この子が見初められたってことですか?」
ラシェルはぎょっとした。
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