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撤退していく敵軍を眺めていた。
金のヴェーブかかった長髪を血なまぐさい風に靡かせ、彼女は堂々とした風体で、さっと剣のつゆを払う。
戦に勝てば、兵士のあいだに歓喜が湧くものだ。
だが、今回ばかりはそれもない。
さっと回りを見回せば、敵か味方かさえ判別できないような死体の海が築かれていた。
――得たものは少なく、失ったものが多すぎる
なんのための戦か、それさえもわからない。
金髪の娘――ジークリートは、さっと踵を返した。ちょうど集まってきた四人の腹心たちを見やり、不敵に笑みを浮かべる。
「此度の戦は結した。われらが勝利を、陛下に報告しよう。……失ったものの多きを、あの方に知ってもらわねば」
ジークリートを真っ青な空を見上げた。
戦後には不釣り合いなほどの晴天は、どこまでも清んでいて美しい。
まるで、忠誠を誓ったあのかたのようだ、と思った。
彼女のすべては、王のために存在する。今日まで戦ってきたのも、ぜんぶ、何もかもが、王のため。
愚かでいて、そしてどこまでも優しかった愛しい王。
かのひとを思い出すと、ふいに、涙がにじんできた。
「……もし、来世があれば」
自分にさえ聞こえないほどの小声だった。
それぞれ歩き出した四人の腹心の一人、そのなかで十二歳ともっとも幼いルイ・アベルが振り返る。
「なにか言った?」
「……皆もご苦労だった。お前たちはわたしの誇りだ」
ジークリートは笑った。
どこまでも清々しい笑みで。
彼女は足を止めて振り返る腹心たちをそれぞれ見渡すと、ふいに、遠くを見つめて――そのまま、血の海へと倒れ込んだ。
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