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ラシェルは億劫な瞼をゆっくりと上げた。
視界に映った天井をぼんやりと見つめ、先ほどまで見ていたあまり好ましくない夢を思い出す。
(……なんだったんだろ)
がしがしと頭を掻きながらため息をついて、身体を起こした。
夢の中で、ラシェルは重い病気を患っていた。病を押して戦場に出て勝ったはいいが、戦果を王へ報告に行くまでに力尽き、戦地で命を落とした娘の夢だ。
嫌に現実感がある夢を脳裏から振り払いながら、寝間着を着替えようとして――ふいに、動きを止めた。
「……え」
ドアの前に、見知らぬ青年が座っていた。歳は二十歳くらいだろうか、癖の強い短い髪が、ぴょんぴょんと跳ねている。
いつからいたのだろう。じっとラシェルを見つめている。
「だ、だれ」
ほかに言葉が浮かばなかった。
この小さな二階建ての戸建てに住んでいるのは、ラシェルと母であるベルの二人。父は幼いころ他界しているし、昨夜来客が泊まったという話は聞いていない。
つまり、ここに自分やベル以外の第三者がいるのはおかしいわけで。
さらにいえば、ここはラシェル個人の部屋なので、自分以外の者がいるとかなりの違和感を覚える。
思わず動きを止めて凝視したラシェルを見て、青年は徐々に目を見張っていった。
『……俺が見えるの?』
ぽつり、と青年は恐ろしい一言を言った。
不法侵入者!? と青年を凝視したラシェルは、ふと、青年の肩の向こう側。うっすらと扉が透けていることに気づいて、あんぐりと口を開いてしまう。
これはもしや、「ゆ」のつくアレかもしれない。
『ねぇ、ほんとに俺のこと……』
「いや――――――――――っ!」
絶叫がとどろいた。
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