第一章

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これ以上ないほど壁にくっついたラシェルは、二人を睨み付けた。 「止まって! こっちこないで!」  途端に、二人はぴたりと動きを止める。 よかった言葉は通じるらしい、とこのときになってようやく理解した。 「あ、あのさ。……だれ? っていうか……なに?」 『あ、やっと会話してくれる気になったんか? そりゃよかった。俺、レオポルド。よろしく』  いえい、と右手をあげてみせるレオポルドを、ラシェルは口をだらしなく開いた状態でじぃっと見つめた。  ガタイのいい彼の身体は、朝日を受け止められずに後ろに流している。半透明の身体は、どう見てもこの世のものとは思えない。 (……ん?)  ちょっと待てよ、とラシェルは目を細めた。 「もしかしてアンタたちって、ボルバノの人間?」  隣国ボルバノは、呪術大国だ。呪いや占いが日常生活にまで浸透した、摩訶不思議な国でもある。  ラシェルはボルバノに行ったことがないのでよくわからないが、聞いた話によると不思議な術を使う人間がいるらしい。  ともなれば、彼らがボルバノの人間だとしてもおかしくはないのではないか――たとえ、透けてても。  だが、そんなかすかな希望をもって問うたラシェルを、あっさり二人は否定した。 『まさか。俺ら、正真正銘の幽霊だっつーの』 『そうですよ、姫。わたしたち、あなたとの誓いのもと、魂で繋がれた生涯の伴侶ではありませんか』  再びじりじり近づきだした二人を視線でけん制し、ラシェルは青くなる。 (や、やっぱり幽霊! で、でもなんでいきなり、こんな。しかも真昼間からっ)  いっそのこと逃げてしまいたい衝動に駆られたが、出口であるドアは彼らの向こう側にある。窓から飛び出せば外には出られるが、あいにくここは二階だ。それに、逃げたらなんとなく追ってきそうでもある。
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