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これ以上ないほど壁にくっついたラシェルは、二人を睨み付けた。
「止まって! こっちこないで!」
途端に、二人はぴたりと動きを止める。
よかった言葉は通じるらしい、とこのときになってようやく理解した。
「あ、あのさ。……だれ? っていうか……なに?」
『あ、やっと会話してくれる気になったんか? そりゃよかった。俺、レオポルド。よろしく』
いえい、と右手をあげてみせるレオポルドを、ラシェルは口をだらしなく開いた状態でじぃっと見つめた。
ガタイのいい彼の身体は、朝日を受け止められずに後ろに流している。半透明の身体は、どう見てもこの世のものとは思えない。
(……ん?)
ちょっと待てよ、とラシェルは目を細めた。
「もしかしてアンタたちって、ボルバノの人間?」
隣国ボルバノは、呪術大国だ。呪いや占いが日常生活にまで浸透した、摩訶不思議な国でもある。
ラシェルはボルバノに行ったことがないのでよくわからないが、聞いた話によると不思議な術を使う人間がいるらしい。
ともなれば、彼らがボルバノの人間だとしてもおかしくはないのではないか――たとえ、透けてても。
だが、そんなかすかな希望をもって問うたラシェルを、あっさり二人は否定した。
『まさか。俺ら、正真正銘の幽霊だっつーの』
『そうですよ、姫。わたしたち、あなたとの誓いのもと、魂で繋がれた生涯の伴侶ではありませんか』
再びじりじり近づきだした二人を視線でけん制し、ラシェルは青くなる。
(や、やっぱり幽霊! で、でもなんでいきなり、こんな。しかも真昼間からっ)
いっそのこと逃げてしまいたい衝動に駆られたが、出口であるドアは彼らの向こう側にある。窓から飛び出せば外には出られるが、あいにくここは二階だ。それに、逃げたらなんとなく追ってきそうでもある。
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