第一章

5/18
前へ
/97ページ
次へ
『あのさ、姫。俺ら、じつはずぅーっとここに住んでるんだ』  ぽつりとレオポルドが言った。いつの間にか彼らは一定の距離を保った場所で止まっており、それ以上近づいてはこない。 「す、す、住んでるって」 『姫の傍にいたいから、俺らずっとここにいるんだよ。約束したろ? ずっと傍にいるって』 「し、知らないっ。そんなこと」  反射的に否定をおけば、その瞬間、レオパルドの瞳が暗くなる。重々しい感情が表情に現れ、自分の一言で彼を傷つけてしまったことを悟った。  とっさにリオネルを見れば、彼もまた何かを堪えるように眉をひそめている。 (……僕が悪いの?)  ズキ、と胸が痛んだ。 (初対面の幽霊相手に、良心が痛むなんて)  でも。 よくよく考えれば、彼らはそこにいるだけであって、ラシェルを傷つけたわけではない。話をしようとしてくれているのも、冷静になればよくわかる。  怖がらせないように一定の位置から近づいてこないもの、彼らなりの配慮だろう。  なのに、ラシェルは一方的に酷い言葉をぶつけてしまったらしい。  そうだ。幽霊だって、感情があるんだ。まるで暴漢に対するみたいに当たってしまって、申し訳ないことをしてしまった。 「ご、めんなさい。酷いこと言っちゃった?」  おそるおそる言えば、レオポルドに笑みが戻った。だが、先ほどまでの明るさは影をひそめ、少しの警戒色が瞳に浮かんでいる。 ぱたぱた、と彼らとのあいだに壁のようなものができたのを感じた。 『いや、だって記憶ないんだし。しゃーないよな。な、リオネル』 『そうですね……転生とは、そういうものです。わかってはいましたから、大丈夫ですよ』  リオネルは微笑んでそっと身を屈めると、小動物でも呼びよせるかのようにラシェルへ手を伸ばした。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加