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『あのさ、姫。俺ら、じつはずぅーっとここに住んでるんだ』
ぽつりとレオポルドが言った。いつの間にか彼らは一定の距離を保った場所で止まっており、それ以上近づいてはこない。
「す、す、住んでるって」
『姫の傍にいたいから、俺らずっとここにいるんだよ。約束したろ? ずっと傍にいるって』
「し、知らないっ。そんなこと」
反射的に否定をおけば、その瞬間、レオパルドの瞳が暗くなる。重々しい感情が表情に現れ、自分の一言で彼を傷つけてしまったことを悟った。
とっさにリオネルを見れば、彼もまた何かを堪えるように眉をひそめている。
(……僕が悪いの?)
ズキ、と胸が痛んだ。
(初対面の幽霊相手に、良心が痛むなんて)
でも。
よくよく考えれば、彼らはそこにいるだけであって、ラシェルを傷つけたわけではない。話をしようとしてくれているのも、冷静になればよくわかる。
怖がらせないように一定の位置から近づいてこないもの、彼らなりの配慮だろう。
なのに、ラシェルは一方的に酷い言葉をぶつけてしまったらしい。
そうだ。幽霊だって、感情があるんだ。まるで暴漢に対するみたいに当たってしまって、申し訳ないことをしてしまった。
「ご、めんなさい。酷いこと言っちゃった?」
おそるおそる言えば、レオポルドに笑みが戻った。だが、先ほどまでの明るさは影をひそめ、少しの警戒色が瞳に浮かんでいる。
ぱたぱた、と彼らとのあいだに壁のようなものができたのを感じた。
『いや、だって記憶ないんだし。しゃーないよな。な、リオネル』
『そうですね……転生とは、そういうものです。わかってはいましたから、大丈夫ですよ』
リオネルは微笑んでそっと身を屈めると、小動物でも呼びよせるかのようにラシェルへ手を伸ばした。
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