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『もう少しこちらに来てはもらえませんか? 姫に危害を加えるようなことはいたしません』
「その、姫っていうの。僕?」
『もちろん。姫は我らの姫ですから』
よくわからずに首をかしげたが、じっとリオネルに見つめられ、もぞもぞと腰を浮かして少し前に出た。
途端にふわりとほほ笑まれて、ラシェルは頬を熱くする。幽霊だろうがなんだろうが、リオネルは外見がいい。とくべつ面食いというわけではないが、こう優しく微笑まれては、乙女心が反応してしまう。
ぽ、と頬を染めていると、ふいに、横からレオポルドが覗き込んできて身体をのけぞらせた。
『……やっぱり顔か?』
「わ、悪い!? 仕方ないだろ、僕だって女の子なんだからっ」
真っ赤になって言い返せば、レオポルドは面白くなさそうな不敵な笑みを浮かべ、ラシェルではなくリオネルを振り返った。
『お前……裏切る気じゃないだろうな』
『まさか。前世ならまだしも、今は身体もありませんしね』
『前世なら、って。お前やっぱり姫に懸想してたな!』
『あなただってそうでしょう? おあいこですよ』
『ばっ、俺はちげぇよ。純粋な忠誠ってやつで』
言い合いをはじめた二人をぽかんと見つめていると、ふいに視界の端でうごめくものがあった。
そちらへ何気なく視線をそらして、ひっと悲鳴をあげる。
『……そんな驚き方はないだろう。僕だって傷つくんだ』
にょき、と壁から生えた少年の首は、むっつりと拗ねたような口調で言うと、小柄な全身を現した。また新しいのがきた、と思って呆然と眺めていると、少年のうしろ、やたら背の高い中年男までもが出てきて、ラシェルは目を剥く。
(な、何人いるんだよ――っ!)
いち、に、さん、よん。
どう見ても、四人いる。二人から、四人……倍に増えた。
愕然とするラシェルの前に、十代前半ほどだろう年齢の少年が進み出た。
『僕は、ルイ・アベル。こっちのオッサンが、ルイ・ジョセフ。覚えた?』
「……えっと。きみがルイ・アベルで、あっちがルイ・ジョセフ」
もうどうにでもなれ、という気分で反芻すれば、ルイ・アベルは満足げに微笑んだ。
『正解。見えるようになったっていうのなら、ちゃんと説明するから』
そう言って、ルイ・アベルは未だ口論を続ける二人の青年を後目に、ラシェルの寝台に横座りした。
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