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時代は今より六百年前。シルヴェリア国建国の時代まで遡るという。
小国が出来ては消えていく戦乱の時代に、姫騎士ジークリートは生まれた。彼女はシルヴェリア国の基礎となった小国の王に忠誠を誓い、すべてを賭して国を戦乱から守り抜く。
そこまで話して、ルイ・アベルは小さく息を吐いた。
『でも、天は彼女の戦才を認めず、わずか二十三歳という若さでこの世を去った』
「え、死んじゃったの?」
唇をかみしめて、ルイ・アベルが頷く。
『彼女の墓標で、僕たちは誓ったんだ。その魂に、永久に沿うことを。姫は王に忠誠を誓ってたけど、僕たちの誓いは姫のものだ。この身も、心も、魂も、なにもかもが姫に向けられていた』
「そ、それで?」
『それで、今に至る』
いきなり端折ったルイ・アベルは悪戯っ子のように笑うと、ひらひらと手を振った。
『見ればわかるだろう。僕たちと姫は魂で結ばれてるんだ。少なくとも、現世では傍にいられる――君が、ジークリートの生まれ変わりだから』
つまり、ラシェルがジークリートの魂を持つから、こうして彼らはここにいるということか。
だとすれば、前世の自分はずいぶんと偉大な人間だったらしい。
ルイ・アベルからやたらと真摯な瞳で見つめられ、ラシェルは眉をひそめてうつむいた。
(でも。それって、前世の話だし)
いくら彼らに好かれた姫騎士であろうと、今はラシェルという一少女に過ぎない。
記憶がないどころか、現世では偉大さのかけらもない、どこにでもいる平凡な少女なのだ。ついでにいうと、外見も十人並みである。
ジークリートがどんな容姿をしていたかは知らないが、美談を聞く限り、きっと美しい娘だったのだろう。
ラシェルは軽く頭をかかえた。
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