柚子ちゃんは、おかえしがほしい。

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 二十センチある身長差を利用するかのように、下半身に思い切りタックルをかましてくる。その見事なまでの双手刈に僕は柚子を抱き締める形で、アスファルトに尻餅をつく――正確には腰を打ち据える。  痛い。とても痛い。  そして、視界が反転し目を回している僕に、柚子は容赦なく小鳥が突くようなキスの雨を降らせた。  額に、頬に、耳朶に、首筋に、そして口唇に――それを塞ぎあった僕達から、周囲にくぐもった水音が艶めかしく響く。  口腔を愛撫し合った僕たちはお互いを銀糸で繋げながら、しばらく潤んだ瞳で見つめ合う。  周りに誰もいなくてよかった。  いや、たとえいたとしても、僕は彼女の嵐のような求愛からは決して逃れられ――逃れなかったのだろうけれど。  柚子が少し赤くなった口唇に指を当て、悪戯っぽく僕に笑む。 「柚子がよーくんの恋人になったんだからさ」  あ、この子、条件をまた追加しようとしてない? まったく柚子は―― 「奈緒ちんのこと、綺麗にケリつけてね」  柚子は僕が手に持っていた『奈緒のチョコ』を奪い取り、線路内へと放り投げた。  カンカンと、再び踏切警報音が鳴り響く。  警報灯の赤色が柚子の顔を明滅させている。  赤黒く染まった彼女の顔が、僕の目にはひどく怖ろしいものに映っていた。  その表情は決して『無垢』なんかじゃなかった。男には絶対に分からない、なにか得体の知れないドロドロしたものが表出された『女』のそれだった。  ああ、そうか。  ()()()()()()()()()()()()()()()()()。  彼女は、僕の気持ちなんてずっと前から知っていた。  彼女は、僕のことなんか好きじゃない。  彼女は、僕のことがずっと――邪魔だったんだ。  地面に放り出された二つのチョコレートの包みが、腕木の内外で、次の電車を待っている。
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