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柚子が相当強く蹴ったのか、蹴られた和也は未だ脛を抱えたまま地面に蹲っている。
そこまでやらなくてもいいだろうに。
でも、実は、僕は柚子がそこに割り込んできて、正直ホッとしていた。
僕のまわりが自然とそういう流れに持っていっていることは分かっていた。僕と奈緒をくっつけようと色々と画策していることも知っていた。それに……彼女が僕のことを好きだということも、薄々わかっていた。
だって、彼女はとてもあからさまだったから。
他の男とは壁を作るのに、僕と接するときには簡単にそのパーソナルスペースを許してくれること。
僕がグループ外の他の女の子と喋っているときに気付く、その悲しそうな顔。今日のバレンタインに僕にくれた、他のみんなとは違う、決して義理ではない凝った手作りのチョコレート。
いくら鈍感な僕でも気がつく。そして、彼女自身もそんな僕の返事を待っている。
奈緒のことは好きだ。
性格もよく、学業成績も優秀で、容姿だってそんじょそこらのアイドル顔負けの美顔で――そんな彼女を嫌うなんてことは絶対にない。
でも――何故僕なんだろう。
僕なんかには勿体ない、釣り合いなんて全く取れてない、僕にはそんな彼女に好かれる要素が見当たらない、それに、それに――
僕が本当に好きなのは、大好きなのは『柚子』なのに。
「よーくんも、気軽に『可愛い、可愛い』って連呼しちゃだめなんだよ」
「なんで?」
「うー、だって」
柚子が珍しく言い淀む。
「だって?」
「だって、うー、とにかく、だめ」
少し涙目になりながら、上目遣いで訴えかける柚子。「だって……嫌なんだもん」と口の中で何かの呟きをボソボソと丸めた。
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