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彼女に気付かせてはいけない。そう思うと、僕の胸が痛くなる。ありきたりな表現なんだけど、本当に締め付けれるような痛みが胸に走る。
でも、いいんだ。
慌てふためく珍しい柚子の表情が見られるかもしれない。今は、彼女のそんな可愛らしい仕草を発見するだけでいいんだ。
「うん、いいよ」
でも、僕が柚子の驚く顔を拝顔する間もなく、彼女がノータイムでその願いを受け入れていた。
そっか、そんな驚かなかったか。ドッキリ、失敗かな――うん――うん?
……え? いいよ?
「え、柚子、今、いいよって言った?」
「あは、嬉しいなー」
綺麗に揃った白い歯を見せ、満面の笑みを浮かべる柚子に、
「ちょ、ちょっと、待ってよ、柚子! え、なんで? それに、僕、一生恋愛しちゃだめなんじゃ? 柚子とだって、そんな」
「柚子とはオーケーなのだ。うふふ、柚子、前からよーくんのこと大好きだったから、超うれしー」
万歳した格好でくるくる楽しげに、幸せそうに回る。「うれしー」と喜びはしゃぐ柚子。
そこで僕は堪らなくなった。
「……僕も柚子のことがずっと好きだったから、すごく嬉しい」
その言葉で、柚子は手に持っていたチョコを放り捨て――いや、放っちゃだめでしょう――ものすごい勢いで僕の懐に飛び込んできた。
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