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そんな一族から疎外された曽祖父を、それでも少しは慕っていた父と祖父が寝ずの番を買ってでた。そこに無理矢理付き合わされる羽目になった真紀は、ちゃぶ台の上に柿の種を整列させる作業に勤しみながら二人の会話を聞き流していた。 「あの人がやっと連れていってくれたに違いない。おれはフミさんの話しを聞いてすぐにわかった」 「……妾って……十郎さんは男の人だったんじゃないか」 「おまえのうんと小さい頃に亡くなったからなぁ、おまえはよく覚えてねえんだ」 ふうん、と適当な相槌を打って、せっかく並べた柿の種をごっそりと奪っていく。真紀は、そんな父の横暴にも屈せず、また菓子皿から柿の種を掴み取った。 「じいさんと十郎さんの間は、あれは特別だったんだよ。妾といっても男だ。子供を拵えるわけでもなかったから、ばあさんも公認の仲だったしな。よく遊んでもらったもんだ」 「特別に仲のいい友人だったんじゃないのか? 病気だっただろう。それを憐れんでここに住まわせたって聞いてた」 「誰に」 「みっちゃんか誰かだよ、よくは覚えてねえが」 「どんなに仲良かったって、裸で抱き合ったりするもんかよ」 ビールを飲もうとしていた父が、唇にコップを当てたまま動きを止める。それを見て、祖父はヒラヒラと手を振った。 「それ以上のことをしてたかどうかは知らねえよ。一応、おれとか兄貴を作ってるから同性しかだめってわけでもねえらしい。とにかく十郎さんは親父の特別だったのさ」 親子三代雁首揃えて何を話しているのやら。真紀は、あくびを噛み殺しながらビールを一口舐めた。父が、こちらを、ちらりと伺ってくる。それに首を振って返すと、彼はそのままコップの中身を飲み干した。先日、自分が同性愛者だとカミングアウトして、大喧嘩をしたばかりだ。 「その十郎さんが、わざわざじいさんを絞め殺しに生き返ってきたってのか」 「そういう話しにしとけばキレイに終わるだろ。変に殺人事件を盛り上げても仕方ねえんだ。みんな一刻も早くあのじいさんのことは忘れたいんだから」 ザラ、と柿の種を一掴み取って口の中に流し込み、乱暴に咀嚼する祖父を見る。だいぶ飲んでいるのに少しも酔っている気配がない。いや、実際酔っていないのだろう。あまり酒に強くはない真紀でさえ、今夜は一向に酔える気がしなかった。
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