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にんにくの香りに肉の焼ける美味しそうな音が混じり、葛城は忘れていた空腹を思い出した。
「参ったな。まさか君がそんなにあっさりと認めるとは思わなかったよ」
「そうですか?岸田課長からバレそうになったら話していいと言われているので」
テレビで見たことはあったが目の前で肉を焼いてもらうのが初めてだった葛城は、若林の言葉より目の前の光景に釘付けだった。
ピカピカに磨かれた鉄板の上にはカットされたズッキーニ、ニンジン、ポテトが綺麗に並んでいる。
野菜が焦げないように絶妙のタイミングでひっくり返すシェフを感心して眺めていると、今度は肉の横でモヤシを炒め始めた。
ニンニクと肉の旨味を纏ったモヤシが美味しそうな色合いになると、どうぞとまずはモヤシを目の前の皿に入れてくれる。
「いただきます」
「葛城君、俺の話聞いてる?」
「聞いてますよ。だけど、まずはこれ食べてもいいですか?」
茶色く色づき少ししんなりとしたモヤシを見つめる葛城に、若林は仕方なく頷いた。
くたりとした見た目を裏切ってしゃきしゃきとした歯触りを残したモヤシは、塩コショウがきいていてとても美味しい。
ズッキーニの両面にうっすらと焼き色がつくと、コテを上手く使い再び目の前の皿に入れてくれる。次々に焼き上がる野菜を楽しみながら食べていると、シェフが肉にすっとナイフを入れた。
若林が頼んだレアは切り口が鮮やかな赤で葛城の方はピンクだ。
「こちらは、オリジナルのステーキソースとわさび醤油です。お好きな方でどうぞ」
「ありがとうございます」
まずはステーキソースにつけて食べてみる。オリジナルと言っていたソースは、玉ねぎが使われているようでほんのり甘味があって美味しい。次にわさび醤油につけてみると、さっぱりとした味で肉の油っ濃さを消してくれた。
「どっちも美味しいです」
「良かった」
にこりと微笑んだシェフがガーリックライスを作り始めた。
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