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島村のあまりにも堂々とした答えが可笑しくて、一珂が声をたてて笑う。
「俺も建築家になるつもりだけど」
ちょっとした意地悪で言ったのに、島村には通じなかったようだ。それどころか。
「それは、オッケーって事?サンキュー」
「え?」
「ギターやってた奴が薬学部で、3年になったら途端に忙しくなって抜けちゃって困ってたんだ。学祭まで後少しだろ、ほんと助かる」
島村に拝むように顔の前でぱちんと手を合わせながら頭を下げられ、今さら勘違いだと指摘できなくなった一珂は渋々頷いた。
「バンドの経験ってあまりないけど……」
「あまりってことは、一度はあるって事?」
「中学生の時に兄の高校の文化祭に出たんだ。でもその時はキーボードでギターじゃなくて」
「中学生が高校の文化祭に出たのか?」
「中学生は俺だけ。キーボードがいなくて兄に頼まれて特例で」
ポカンと口を開けていた島村が、一珂の肩を勢いよく叩いた。
「お前すごいな。ギターもキーボードも出来て、歌まで歌えるんだ」
「痛いなぁ」
「ごめんごめん」
全く感情のこもらない言い方にカチンとした一珂は、改めて島村を見つめた。
もしかしたら苦手なタイプかもしれない。
真山の幼なじみと聞いて少し親近感を覚えていたが、苦手な人と一緒にバンドなんて出来るんだろうか。真山と島村は全くタイプが違う。
……そもそも島村は本当に真山の幼なじみなのか?
一珂の中に疑問が芽生えた。
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