水際《すいさい》

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アパートに帰りついた一珂は、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して一気に飲み干した。 汗でべたべたするTシャツが気持ち悪くて着替えると、強めに設定したエアコンの下で体を冷やす。 「気持ちいい」 顔に風を受けながら、さっきの島村との会話を思い出していた。 バンド名はmaster architect《マスターアーキテクト》といい現在のメンバーは4人。元々は音楽サークルに入っていたが飲み会やレジャーばかりしているのが嫌で気のあった仲間でバンドを作り、サークル外で活動を始めたらしい。 みんなで集まって音楽をするというのが目的のゆるいバンドで、学祭が主な発表の場らしい。 「さっきゆるいバンドって言ったけど、みんな音楽に対しては真剣だからそれだけは誤解しないで欲しいんだ。1度練習に参加してもらえればわかると思うんだけど……あ、なんかつい熱くなっちゃったな」 照れ笑いをする島村を見て、一珂の中で少しだけ島村に対する印象が変わった。 悪いやつではないんだよな。そうだ。 携帯を開いた一珂は、真山に向けてメッセージを送る。 どんな返事がくるかな……。 携帯を持ったままごろりとベッドに寝転びながら、レースのカーテン越しでも眩しい夏の空を見上げた。
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