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「みんな元気だな」
時刻は朝の6時半。こんなに早くから嬉々としてゴルフに勤しむ人々を、葛城と先輩社員である若林は呆れたように見つめていた。
ここは野々宮カントリークラブ。国内にいくつものゴルフ場を持つ野々宮リゾートが来週オープンする新しいゴルフ場だ。
この土地は葛城が勤務する岸田不動産が3年前に野々宮リゾートに売却したもので、その関係で野々宮カントリークラブのプレオープンイベントに岸田不動産も招待されているのだが……。
「本宮専務の動きに不自然な物を感じるんだ。今回は関係ないとは思うが、専務と親しくなるいい機会なのでお前も同行してくれ」
岸田の席に行くといきなり週末の出張を告げられた。当初営業の若手が行く予定だったが、岸田が葛城を強引に捩じ込んだらしい。
「お前はよく動くと言ってあるから、期待してるぞ」
「はぁ……。ただ、週末は……」
一珂と会えるのを楽しみにしていた葛城は、少しだけ抵抗を試みる。
けれど何もかも見透かしたような岸田にかかれば、葛城の小さな抵抗等あっけなく潰される。
「お前が頑張れるように餌を与えよう」
岸田から渡されたのは別荘の鍵だった。
「この夏いつでも使っていいぞ。もちろん誰かを呼んでもいい。どうだ?」
「どうだと言われても……」
「鈍いな。一珂君を誘えばいいだろ。プライベートビーチもあるし喜ぶんじゃないか?」
途端、葛城の脳裏に楽しそうに海ではしゃぐ一珂の姿が浮かんだ。
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