水声《すいせい》

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一方一珂と真山が入っているゼミの山南(やまなみ)准教授は、彼自身も数々の賞をとっているのに全く偉ぶることはなく生徒指導も熱心なためゼミに入るのは結構な競争率だった。 楠原ゼミの人数がいくら少ないと言っても2つのゼミを合わせるとそれなりの人数になる。そのため両ゼミから1人ずつ手伝いが選ばれ、これから先生を交えた打ち合わせをするらしいのだ。 「大変だな」 「そう思うなら変わってくれよ。そうじゃなくても……」 「ん?」 「何でもない」 そこで冒頭のため息に戻る。 葛城さんに会いたいな。 一珂は大好きな恋人に思いを馳せた。 付き合って初めての夏を葛城と一緒に楽しみたかったのに、お互い忙し過ぎて9月まで会えそうにないのだ。 社会人である葛城が休みの盆にわざわざゼミ合宿を当ててこなくても…。 「もしかして、あいつと会えてないのか?」 にやりと笑いながら真山が問いかける。 「そうだよ」 「じゃあ、チャンスかな」 「……真山っ」 「冗談だよ」 クスクス笑う真山を睨んでいると、気分が少し上向いてきた。
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