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時間になり一珂が山南の部屋をノックすると、「どうぞ」と声が聞こえた。
「失礼します」
遠慮がちにドアを開けるとコーヒーのいい香りが鼻腔をくすぐり、緊張少し解れた。
「いらっしゃい。森沢君はコーヒー大丈夫?」
「はい」
「良かった。そこに座って待ってて。島村君が来たら始めるからね」
どうやらもう1人の手伝いは島村という名前らしい。
ゼミに入って3ヶ月。こんな風に山南と2人で話すのは初めてだ。
勧められたソファーに座った一珂は、この機会に山南をこっそりと観察することにした。
35歳と聞いていたが実際見るともっと若く見え、20代後半だと言われても誰も異論を唱えないだろう。身長は170センチでそれほど高くはないが、筋肉質な引き締まった体をしている。気になる建物を見に国の内外問わず足を運ぶと聞いているので、日頃から鍛えているのかもしれない。そう言えば真山も時間がある時、走ったり筋トレしたりしている。ゼミの後二人が楽しそうに話しているのを見かけるが、もしかしたら筋肉談義とかしてるのかもしれない。
あれ、じゃあ真山に手伝いを頼んだ方が良かったんじゃないのかな。そうすれば先生もこんな気詰まりな時間を過ごさなくて済んだのに。
沈黙が続く中、一珂はこの部屋に来たことを少し後悔し始めていた。
「やっぱり嫌だったかな」
山南に問われて、一珂はハッと顔を上げた。
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