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「もう何やってるの。中町さん、台ふき貸してください」
「……はい。若林君、あんまり苛めてると嫌われるよ」
「苛めてなんてないですよ。葛城君、ズボンまで濡れてるよ」
カウンターを拭き終わった若林は、カウンターから垂れた水で少し濡れてしまった葛城の腿にハンカチを当てた。
「すみません、もう大丈夫です」
ハッと我に返った葛城が若林の腕をそっと押さえる。
「そう?」
すぐに手を引っ込めた若林は、ハンカチをポケットに戻した。
「あの…岸田課長に報告って…」
「葛城君は岸田課長の命令で専務と俺を見張ってるんじゃないの?そうじゃないと、岸田課長が営業の新人を外して無理矢理君をねじ込んだ説明がつかないよ。で、どうなの?」
体を傾けた若林が、楽しそうに葛城の目を覗き込んできた。
葛城が慌てる様子を楽しみにしてるみたいだが、若林を満足させてあげることは出来なさそうだ。
「その通りです。俺は岸田課長に専務と若林さんの動きを見張るように言われました」
葛城は何の躊躇もなく言い切った。
「え、そんなきっぱり認めちゃっていいの?」
「はい、かまいません」
「………」
「若林君の敗けだね」
絶句した若林を見て、シェフの中町がクツクツと可笑しそうに笑った。
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