水声《すいせい》

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一珂の緊張がほぐれ和やかな空気が部屋を満たす。会話は相変わらず弾まないが、先ほどまでとは違い居心地の悪さはほとんど感じなくなっていた。むしろ居心地がいいかも。そんな風に一珂が感じているとバタバタとあわてたような足音が近づいてきて少し乱暴にドアがノックされた。 「どうぞ」 山南の返事と同時に勢いよくドアが開き、ハアハアと息を乱した一人の学生が飛び込んできた。 「遅くなりました」 「構わないよ。そこに座って待ってて」 一珂の隣を示した山南は席を立ち、すぐにコーヒーカップを持って戻ってきた。 「入れてしまったけど、コーヒーで良かったかな?」 「はい、ありがとうございます」 山南は生徒の前にコーヒーを置くと、二人の正面に腰かけた。 「これから一緒に旅行係をしてもらうんだけど、二人は初対面なのかな?」 「はい」「いいえ」 同時に返事をしたが、その答えは違うものだった。 戸惑ったのは山南じゃなく一珂だ。 驚きながら隣に座る生徒をまじまじと見つめるが全く思い出せず、更に顔を近づけるとぎこちなく視線を外された。 「森沢君、島村君が困っているよ」 少し笑いを含んだ山南の指摘で、あまりにも顔を近づけ過ぎている事に気づき、一珂は慌てて隣の生徒と距離を取った。 「す、すみません」 一珂が謝ると、顔を赤くした生徒がブンブンと大きく首を左右に振った。 「だ、大丈夫だから」 「うん……」 「ハハハ、二人とも可愛いなぁ。でも、そろそろゼミ旅行の話をしてもいいかな」 「はい」 「じゃあ、説明するね」 山南の言葉に耳を傾けながらも、一珂は隣の生徒の事が気になって仕方がなかった。
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