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それにしても課長は礼のつもりで誘ってくれてるのに、みんなにアルハラだと思われていたなんて。
可笑しくなって葛城が表情を崩すと、先輩も笑顔になった。
「葛城君が気にしてないならいいけどね。あ、時間だ。じゃあね」
無口であまり積極的に人と関わらない葛城だが、こんな風に心配してくれている人がいる事を嬉しく思う。
「うわ」
部屋を出てすぐの廊下に岸田が立っていた。
「聞いてたんですか?」
「聞こえたんだよ」
「先輩は……」
「エレベーターに向かってすごい勢いで走っていったから俺には気づかなかったみたいだ」
ククと笑う岸田から怒りは感じない。
「あの、先輩の事……」
「大丈夫気にしてないから。それより仕事だ」
「はい」
葛城は岸田からみんなに内緒でもう1つの仕事を与えられている。それは密かに社員の素行を調査し、正す役目だ。どうして葛城にこんな重要な役目を振ったのか未だに理解できないが、次期社長として岸田なりに考えがあるんだろう。
「何か不満があるのか」
「いえ」
「そうか?お前が頑張れるように餌を与えよう」
岸田が取り出したのは銀色の鍵だった。
「俺の葉山の別荘の鍵だ。この夏いつでも使っていいぞ。もちろん誰かをよんでもいい。どうだ?」
「どうだと言われても……」
「鈍いな。一珂君を誘えばいいだろ。プライベートビーチもあるし喜ぶんじゃないか?」
一珂と海、いいかもしれない。
「ありがとうございます」
「ただし、頑張ったらな」
「わかってます」
にやりと笑って鍵をポケットに戻した岸田に、葛城もにこりと笑って頷く。
「相変わらず可愛くないな」
「元からです。それとその鍵の使用、9月まで有効にしてください」
岸田に追いて会議室まで歩きながら、葛城は一珂の喜ぶ顔を思い浮かべていた。
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