キャサリン

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一九四四年。三月。ベルリンの郊外は風も無く穏やかで、透き通るような大気がどこまでも爽やかだった。それはそれはとても麗らかで優しい朝の気配だった。 季節は今、春を迎えつつあるのだった。だが、春の訪れと共に、あの恐ろしい悪魔は唐突に現れたのだ。黒衣を身に纏った悪魔が、石畳の上を足音も無く歩き、少しずつ忍び寄って来たのだ。 夢を見ているのだろうか。彼女は思ったのだが、そうではなかった。それは現実だった。 髑髏の紋章の入った不吉な制帽を斜めに被り、暗黒色のナチ親衛隊の制服を完璧に着こなしたあの男が、十名の武装親衛隊兵士を引き連れ、彼女の前に現れたのだ。
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