キャサリン

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――時を遡ること数ヶ月前。 今、一九四三年六月。世界全域が戦火に燃えていた。欧州全土を舞台とした大戦の嵐はいつ止むとも知れず、英国は独裁者アドルフ・ヒトラー総統率いるドイツ第三帝国との存亡を賭けた長い戦いの日々に疲弊しきっていた。 だが、すべての英国民は希望を捨ててはいなかった。彼らは総力を挙げて結束し、祖国の正義と勝利を信じた。しかし彼ら国民達は、英国の存続と命運を賭けた史上稀なる困難な戦いに打ち勝つため、想像を絶する忍耐と犠牲を強いられていたのだった。 例えば今ここに、【伯爵】という高貴な身分を持ちながら、英国空軍大佐の階級章を付けた青い制服を身に纏った初老の男がいる。そして彼と共にいるキャサリン・アーチャーもまた、愛国心に燃えて志願した国民の中の一人なのだった。 彼女は訓練機関の施した隙の無い訓練と教育によって、その年齢からは想像出来ない程に大人の女性として完成していた。
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