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「これが当時流行りの、女子プロレスラーになるって言って、エライ騒ぎでな」
「じょ、女子プロレスラー?」
「そうよ。自分で材料集めてきて、庭にサンドバッグぶら下げて、キックの練習したりよ。ガウンっていうのか、キラキラのジャンパーみたいなの着て、音楽かけて、入場行進のマネゴトしたりしてよ」
「アハハ、ウケる」
「俺もプロレスが好きだったからよ、よく話をしたんだよ」
その時、母親の表情がチラッと目に映った。何故だかひどく、動揺しているように見える。
「俺よ、確かサインしてもらったんだよ。自分で考えたリングネームを、こう、かっこよく崩した感じのヤツな。何て言ったっけな、そのリングネーム・・・」
また、母を見る。
「おいジジイ、思い出すなよコノヤロー」
と、言わんばかりの、鬼の形相だ。
・・・だが、
「あ、そうそう、スコーピオン智子」
はい、確定。母の名前は智子である。いやいや、ちょっとダサくないですか、お母さま。あっ、そんな母、お盆で顔を隠してしまった。
「あれは一体、どこの家の娘だったけな・・・」
当時のその娘、今そこにいるおばさんじゃないですか、と言ってあげようと思ったが、さっきまでいた場所から既に、母の姿は消えていた・・・。
家に帰るのが、俄然、面白くなってきた。
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