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見ているうちに、こちらまで思わず微笑んでしまう。
不思議な静寂に満ちた、無垢な美しい世界。
それが画家、四方勲夫(しかた いさお)の世界だった。
「藤田嗣治などは、シッカロールを混ぜていたらしいと聞いたことがありますが?」
「そういうこともあるかも知れません」
「胡粉にもやはりいろいろにあるのですか?蛤胡粉などは、元は存在しなかったという話を聞きましたが」
「昔はよくわかりませんが、今はあるにはあります。実際使ってみると、通常のものよりは若干柔らかいような印象を僕は受けましたが…僕の場合は、まぁ、企業秘密です」
そう言って、彼は笑った。
シャイな中にも茶目っ気に満ちた、人好きのする笑顔だった。
老齢に差し掛かろうというのに、どこか少年のような雰囲気のある人だった。
「最近は胡粉もどんどん無くなってきてるそうですよ?」と付け加えた。
「それは、やはり原材料がどうとかいう…」
「ええ、そうみたいです」
「ただ…一つ言える事は、色というものは、混ぜれば混ぜるほど濁るんです」
それから彼は何かを言いかけて、ふと思い止まるような仕草をし、そしてまた笑って、悪戯っぽく『灰です』と言い、はにかむように肩を竦めた。
「灰ですか?」僕は聞き返した。
「それは植物か何かの?」
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