忌むべき色彩

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静かな情景であるはずなのに、何かしら胸騒ぎを起させる、体の深部を揺さぶられるような奇妙に落ち着かない感覚。 写真の中に写り込んだだけの小さな絵の筈なのに、僕は胸を抉られるような気がした。 「驚きました。確かに…これは確かに何か迫力と言うか…すみません、あまり言葉にならないです。なんと言ったらいいのか。一度、間近に見てみたかった」 「大胆にして繊細、伸びやかに描くかと思えば精緻。衒うことなく、その有り様を有るがままに描く。こういう絵を描く人こそが現代の絵画において必要な人だったと僕は思うんです」 「先程、僕は、あなたのお父さんは賢い選択をされたと言いましたが、同時に本当に惜しいことだとも思っているんです。実に残念なことです」 「先生のような大家の方にそんな風に言われては、父も恐縮するでしょう。僕が知っている父は本当に平凡な人でしたから…」 「でも、あなたは絵がお好きなんですね。やはりどこかしら、そういう血が流れている。審美眼というものは、ある程度は持って生まれれたものだと僕は思います。謂わば『直感』ですね。そういう感の良し悪しは、それこそ鍛えてどうということがない。あなたはおそらく、お父さん譲りのそれを持っていらっしゃる。それこそ天賦の才です。     
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