忌むべき色彩

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芸術には、当然作家も必要ですが、それと同時に優れた鑑賞者も必要なんです、芸術を理解するに足る鑑賞者が。最近はその辺の所が…真贋見分けのつかない人が多すぎる。僕ら作家なんかもそうです。僕ら凡人なんかはその辺の辺りをあれやこれやと策を講じて、なんとか下駄を履かせて、やっと、です」 「そんな!とんでもない」 「いえ、それはあなたにはわからないんです。わからない筈です。あなたにとっては、あって当然のことなんですから」 「そうでしょうか。いえ、先生それは、あんまりです」 僕は口篭った。 この時、僕は四方氏が何を言わんとしているのか、全く想像がつかなかった。 自分はなぜ此処にいるのだろう。 僕はこのアトリエに招かれた意味を考えていた。 そして、気付くと口走っていた。 「先生、失礼を承知で言います。僕には、そうは見えませんが、先生は悔いてらっしゃるのですか?画家であることを」 僕がそう言うと、彼はそれまで纏っていた気さくな仮面をかなぐり捨てたように低く沈んだ声で『まさか』と言った。 「悔いてはいません。先程も言いましたけど、僕にとっては全てにおいて絵が優先される。でなければ、浮かばれません」と彼は言い、ふつと口を閉ざした。
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