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「園長先生、魔法が使えるの? すごーい」
「すごいでしょう」
園長先生は、自慢げに言いました。
「じゃあ、園長先生はどうして毎日、みんなに『おはよう』って言うの?」
「それはね、私がみんなに魔法をかけてるのよ」
「ええっ! どんな魔法?」
「まりちゃんは、幼稚園に来るのが楽しい?」
「うん」
「それが私の魔法よ。まりちゃんは、年長さんになって、なわとびが飛べるようになったでしょ?」
「うん」
「それも私の魔法。それからお弁当のにんじんも食べられるようになった」
「うん」
「それも私の魔法」
「すごーい」
と言って、それからまりちゃんは、園長先生を黙って見つめました。
「……どうしたの?」
「あのね、私に魔法をかけてほしいの」
「どんな魔法?」
「私、大人になったら何になるか、決めてないの。だから、園長先生の魔法で、私が大人になったら何になるか、決めてほしいの」
ペンギン幼稚園のお誕生会では、お祝いしてもらった人は、大人になったら何になりたいか、みんなに発表することになっていました。
でも、まりちゃんは、この前のお誕生会で、何になりたいか答えられなかったのです。
園長先生は、その時のまりちゃんの悲しそうな顔を思い出しました。
「わかったわ。魔法をかけてあげる」
「ホントに?」
園長先生はまりちゃんのほっぺを両手で包んで、まりちゃんの目をまっすぐに見つめました。
「まりちゃんは、きっと、大人になったらやりたいことが見つかるよ。ミツカル・ミツカル・ミツカルヨー。……よし、これで大丈夫」
「ありがとー。ねえ、園長先生、私も魔法使いたい」
「うーん。魔法を使うには、沢山の人に『おはよう』って言わなきゃ使えないのよ。まりちゃんできる?」
「百人くらい?」
「もっと沢山」
「千人くらい?」
「もっともっと沢山」
「ええー、大変だねー」
そこへ、まりちゃんと同じイルカ組の、のんちゃんが歩いてきました。
「園長先生おっはよーございまーーす!」
「おっ、のんちゃん、今日も元気だね。おはよう」
あっ、今、園長先生はのんちゃんに魔法をかけたのかな?
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