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園長先生は、病院のベッドで眠っていました。
「みんな、園長先生はお昼寝してるから、静かにしてね」
ようこ先生がそう言うと、イルカ組のみんなが、黙ってベッドの周りに集まりました。
園長先生の手からコードが伸びていて、そのコードの上に水の入った袋がついていました。
「これは点滴って言って、お薬を体に入れてるんだよ」
と、ようこ先生が教えてくれました。
まりちゃんは、その手をぎゅっと握りました。
園長先生の手は少し冷たくて、でも、まりちゃんが握ると、優しく握り返してくれました。
「園長先生、あのねっ!」
突然、大きな声でまりちゃんが言いました。
「私、園長先生になるっ! 大人になったら園長先生みたいな園長先生になるっ!」
まりちゃんの声で、園長先生が目を覚ましました。
園長先生はキョロキョロと周りを見渡して、まりちゃんを見つけて、にこっと笑いました。
イルカ組のみんなは、園長先生が起きてくれて、とっても嬉しくなりました。
「私はケーキ屋さんになる」
「僕はサッカー選手」
「あたしはお花屋さん」
「僕はライオン」
みんなが言いました。
「こら、静かにしてって言ったでしょっ」
ようこ先生が言いました。
園長先生は、イルカ組のみんなの顔を見て、それから、うんうんと頷きました。
「その気持ちを大事にしていれば、いつかきっとなれますよ」
まりちゃんには、園長先生がみんなに魔法をかけてくれたような気がしました。
それからしばらくして、園長先生が遠く離れた病院に移ってしまって、もう幼稚園には戻ってこないことになりました。
まりちゃんは、それを聞いて、とっても寂しかったけど、それから毎朝、幼稚園の門の前で、みんなに「おはよう」と声をかけるようになりました。
まりちゃんは、園長先生みたいにみんなに魔法をかけることはできません。
でも、挨拶がとっても好きになりました。
友達に笑顔で「おはよう」と言うと、友達も笑顔で「おはよう」と言ってくれて、それが嬉しくて、もっともっと笑顔になれることがわかったからです。
まりちゃんの朝の挨拶は、まりちゃんが卒園するまで続きました。
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