夏の終わりと

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夏の終わりと

「夏の終わりは寂しいな」  と、彼は言った。 「そう?」  あたしはアイスキャンディを舐めながら何の気になしにそう答えた。 「夏の終わり時期にそう思ったことはない?」  彼は驚いた様子であたしの顔をまじまじを見つめた。 「ないなぁ……。暑いのが終わって清々するくらい。今日だって30度超えたのよ。暑さ寒さも彼岸までっていうのは嘘よね。あたしはむしろ早く夏が終わってほしいわ」 「君には情緒っていうものがないのかい?」  彼は呆れ顔で溜息をついた。 「情緒?」 「そう、情緒。センチメンタルな心、感傷、郷愁的な気持ち、そういったものだよ」 「センチねぇ……」  彼はいつもこんな感じ。男の彼はいつもおセンチで、あたしは無感情的。彼が哲学的な思想の持ち主で、あたしは極々現実的。かと言ってそんな彼が嫌いな訳ではないのだけれど。  あたしは彼に付き合ってやることにした。 「じゃあ、夏の終わりはなんで寂しいんだと思う? 夏だから? それとも、終わるから?」 「ボクは夏が終わるということに意味があるのだと思う。同じ終わりでも、冬の終わりはむしろ歓迎。春の息吹を感じ、その先にある生命を感じるからだ」     
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