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おはよう
「おはよう。」
溜めていた空気が口から吐き出され、白い息となってあたりを曇らす。彼女が振り向くのが分かる。一瞬、彼女の顔が見えなくなって、彼女の笑顔と共に目の前の景色が晴れる。
「おはよう。今日も早いわね。」
「君ほどじゃないさ。僕は近くまで自転車で来てるしね。」
駆け足で彼女の横に並ぶ。それからは学舎までたわいのない話をしながら進む。この時期の自転車は寒くて仕方がないだとか、朝に食べる売店の軽食は昼とは違って特別な味がするだとか、とにかくどうでもいい話を。綺麗な白髪の彼女は毎日楽しそうに僕と話をしてくれる。彼女が何者なのか、僕が知っているのは僕と同じ学生でこの辺の学校に通っていることくらいだ。だからそこに辿り着くまでの関係。
「君は手袋なしで寒くないの?僕ので良ければ使って。」
両手にはめていた手袋を外し、まとめて彼女に向けて手を伸ばす。
「寒いわよ」
そう言って彼女は僕の手袋に手を伸ばす。両手でそれを掴んだと思ったら、そのまま僕の手ごと彼女の方に引っ張る。気が付けば僕と彼女の顔はその掴まれた手を挟んで向かい合わせになっていた。
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