雪降る日

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雪降る日

「きっと、これが最後の雪だね」 「春だから?」 「ううん。見納めになるんじゃないかなって。今晩には出発するんでしょ?」 「その予定」 「首都は降らないんだよね?」 「そうだな。ここより南だし、そもそも降水量が少ない」 「だから私、絶対に見ないことにする。この瞬間を記憶の中に閉じ込めてしまうために。二度と雪なんか」 「それって、もしかして、俺に行くなって言っているの?」 「違う。そんなんじゃない。私の我儘のために、ようやく手に入れた未来への切符を破り捨てて欲しくなんか無い。それに、考えてみて。私のために夢を捨ててしまう人のことなんか、尊敬できるって思う? 大体、君は選ばれたの。多くの人間の中から、優れた能力を持っているって」 「別に、そんなに凄い人間じゃないさ」 「ううん。私は知ってる。その権利を手に入れるのは簡単なことじゃないって。才能だけで合格したわけじゃないって。みんなが遊んでいる横で、絶えず努力をしてたじゃない。明日、何処へ遊びに行こうかって話している横で本を読み続けていたし、どれだけ誘っても、人間が嫌いなんじゃないか? って思うくらい断り続けて、私達が真似する気にもならないくらい勉強を続けていたじゃない。未来はそんな君を待っているって、確信に近い予感があるの。君は、この世界をより良くして、大勢の人たちの生活を豊かに、幸せにしてくれる。きっと、そんな人になれると思うんだ」 「未来のことは誰にもわからないさ。首都には、俺達の想像もつかない天才たちが蠢いていて、今まで必死に苦労して得た知識や能力も実は、そいつらにとっては大したことではなくて、一ヶ月もしないうちに挫折をしてしまうかもしれないし」 「それでもっ! それでも、立ち止まらないで欲しい。歩き続けて欲しい。もう、二度と会えなくなる。だとしても、そんな君のことを応援したい。……動かないで。まだ、もう少しだけ。……ごめん。最後はさ、笑顔で別れたいんだ。そうすれば、良かった。私は英雄を心地よく送り出すことができたんだって一生、家族や友達に自慢げに話すことができるじゃない」
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