さよならは、言わないよ

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「なぁ、母さん!今月も振り込み頼むよ?」 事態は窮を要していた。 「・・・この前、振り込んだばかりじゃない?」 「このままだと、アパート追い出されちゃうんだ」 金が底をついていた。 「・・・仕事は?仕事はしていないの?」 「し、してるよ!ただ、オーディションが続いてなかなか行けていないんだ」 「そう・・・頑張っているのね」 「・・・うん、なんとかやってるよ。今度、小さな役だけど、ドラマに出る事になったんだ」 「・・・そう、良かったじゃない」 通行人Aなんて言えない。 「だから、頼むよ?母さん」 「・・・わかったわ。少し時間ちょうだい」 「・・・どれくらい?」 「そうね・・・1週間くらいかな?」 「そっ、そんなに!?」 「遅いの?」 「携帯、止まるかも・・・」 「・・・わかったわ、明日振り込むわよ」 「・・・ごめん、母さん」 「体には気をつけなさいよ」 「うん・・・」 「じゃあね・・・」 母さんとの電話を切る。 「母さんに悪い事したな・・・」 「もう、電話いいの?」 柚希が近づいてきて、話かけてきた。 俺の彼女だった。 「あぁ・・・」 「そんなにお金ないなら、貸すよ?」 「いや、大丈夫。ありがとう」 付き合っている女から借りるのは、気が引ける。 まぁ、仕事もせず成人しても未だに母親から金をせびるのも、どうかと思うが。 「ねぇ?」 俺が座っているソファーの隣に座り込んだ。 「今度、このバッグ欲しいなー」 柚希が雑誌に載っているピンクのバッグを指差して、甘えてきた。 「うわっ、20万!?」 「うん、今度パーティーがあってね・・・」 柚希とは以前ドラマの現場で会い、そこから交際が始まった。 柚希は女優志望のモデルで、俺より1つ下の19歳。 今では殆どの生活をここ、彼女の自宅で俺は過ごしている。 こんな綺麗な彼女をあんな小汚ない俺の自宅に迎えるのは、気が引けた。 「今度、ドラマに出るんだ」 「えっ!?そうなの?」 「・・・あっ、あぁ。だからそのギャラが入ったらな」 「やったぁ~、嬉しい。ありがとう!!!」 柚希が抱きついてきた。 彼女が喜ぶ笑顔を見るために、嘘を重ね、自分を見失っていた。
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