さよならは、言わないよ

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木々の隙間から差し込む光が、母さんの墓を明るく照らしていた。 実家の裏手にある山道を抜け、開けた道に出る。 そこはいくつかの墓が点在していて、母の墓はその一角にあった。 「母さん・・・」 伯父に借りたタオルやブラシで、母さんを洗った。 まだ新しい墓、伯父が綺麗にしてくれているから必要ないほどだった。 だが今の俺には、やる必要があった。 墓石を拭きながら、母さんとの思い出に想いを馳せる。 運動会には、俺の好きな玉子焼きがたくさん入った弁当を作ってくれた。 誕生日には、毎年友達に仲間外れされないようにゲームを買ってくれた。 毎日野球部のユニフォームが汚れたら、仕事で忙しいのに洗ってくれた。 母さんに甘えっぱなしの人生だった。 「何も・・・何も出来てないじゃないか・・・」 「なんで・・・どうして・・・」 「俺は・・・俺は今まで・・何やっていたんだ・・・」 「・・・今までありがとう、母さん・・・」 涙がこぼれ、動かしていた手が止まる。 「ごめん、母さん。俺、母さんに嘘をついていた・・・」 墓石に向かって、語りかけた。 「電話で話したオーディションの話・・・」 「実は、受かったのは嘘だったんだ。」 「東京に行ってから2年間、1回も受かってないんだ」 「母さんに心配をかけたくなかったのは、勿論ある。ただそれより、見栄を張っていたんだ、俺・・・」 「東京まで行って、ただ惰眠を貪る生活をしていたんだ」 「もしかして、母さん・・・気づいていたんじゃないのか?」 「気づいていたから、俺を助ける為に仕事を増やしたんじゃないのか?」 「俺の為に、無理してお金を振り込んでくれていたの?」 「ねぇ、母さん・・・どうなんだよ?」 「答えてくれよ!!!」 「・・・」 「・・・」 「さっき伯父さんが言っていたんだ・・・」 「俺がこれから先、母さんにしてあげられる事・・・」 「正直、今は思いつかない・・・」 「母さんが今まで俺にしてくれた事を考えたら、簡単に答えを出しちゃいけないから・・・」 「これから先、答えを見つけていくから・・・」 「だから・・・だから、もう少し待ってて・・・」 「・・・」 「ごめんね・・・母さん・・・」 「今まで、ありがとう・・・」 「また、来るね・・・」 「寂しい思いは、させないから・・・」
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