その男、名探偵につき

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「そこで貴官の特別任務だ。雨龍探偵と組んで捜査に当たってくれたまえ」 「え?」 「以上だ。雨龍探偵がそろそろ到着する頃合だ、戻りたまえ」  有無を言わさぬ言葉に気圧され、若者は「失礼します」と署長室を後にするしかなかった。 「しかし何だって自分がその探偵と組まされるんだ?」  廊下を歩きながら独りごちる。  だが疑問に思うのも無理は無い。何せつい半月ほど前に刑事課に配属されたばかりの新人刑事なのだ、そんな特別任務などを任される様な実績などありはしない。  むしろ現場に行く度にその酸鼻な光景に真っ青になって吐き気を催す程の体たらくだ。 「何かの嫌がらせ……な訳は無いよな……でも本当に何でだろう?」 「おい! 新入り!」 「は、はいぃ?!」  ふいに呼び止められて思わず声が裏返る。 「何て声出してやがる。そもそもお前さん、どこに行くつもりだ?」 「え? あ!」  うっかり刑事課の前を通り過ぎていた。 「お前さんの相棒がお待ちだ。さっさと来い」 「え? 相棒って……」 「やぁやぁ、初めまして。君が和戸村君かね?」 「え?」  新人刑事の和戸村(わとむら)が声の主へと目を遣る。  一目で分かる程の仕立ての良い三つ揃いに同じ色のソフト帽、手には細身のステッキを持った長身の若い男性。  その男性に対する和戸村の第一印象は「気障(キザ)」であった。 「あの……貴方が雨龍探偵?」 「如何(いか)にも。僕が私立探偵、雨龍紗烙。以後、見知りおきを」  そう言ってクルリとソフト帽を脱いで胸に当て、一礼する彼に和戸村はますます「気障(キザ)」だと思った。
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